痛み
見たかったものを目の当たりにする。
聞きたかったことを耳にする。
触れたかったものに直に触れる。
その時初めて腑に落ちる。ということがある。
正確には見たいようで。でも見たくないような。
触れたいようで触れたくないような。
複雑な気持ちのまま彷徨っている感じだろうか。
見たくない。聞きたくない。触れたくない。
そう思うのは事実に触れた時の自分の心の持ちようを
持て余してしまうと先回りして考えるからだろう。
しかし見たい。聞きたい。触れたい。という衝動は
なかなか抑えられるものではないことも知っている。
核心に触れるか触れないかのギリギリのところで
すり抜けていくことを数回繰り返してみるが
当然答えを知ることは出来ない。
実はその答えは知っていて、でも正面から衝突していないので
自分の中ではまだ99%だと勝手に思い込み、
自ら作り出した残りのたった1%のために彷徨っているのである。
もう答えは分かっているのにもかかわらず、
見たい見たくない。知りたい知りたくないを
1%だけ残して間抜けにも繰り返すのである。
しかし、その彷徨の終焉は突然やってくるもので、
今回もギリギリをかすめようと思ったら
向こうから突然目の前に現れたのだ。
そうなればもう凝視するしか道はない。
突然すぎて目をつぶって耳を塞ぐこともできない。
覚悟を決めて触れてみるのである。
答えは間違っていなかったとわかるのと引き換えに
やはり想像した通り心の持ちようがわからない。
悲しいとか悔しいとかに似たやるせない感覚が
過去の時間とともに押し寄せてきてふらふらとする。
ふらふらしたまま事実をかみ砕く。
これが見たかったことだ。触れたかったものだと。
気持ちの持っていきように困った時間が幾ばくか過ぎると
その痛みに耐えながら体を整えて向き直る。
自分の手から離れていくことを認めることが
寂しくもあり悲しくもある。そして悔しさと虚しさ。
そしてその痛みは以前から抱えていたものだとわかる。
痛みは記憶であり、面影であり、なつかしさの化身だった。
痛みに耐えることではなく痛みが消えることが怖かったのだ。
しかし事実はとうの昔に手からは離れていたのだ。
指先だけは触れているように勝手に想像していただけなのだ。
事実を知った今、指先からふわりと創造の産物が痛みと共に離れ
風に乗って瞬く間に消えていった。
そう。これでよかったのだと思う。
いや。よかったと思いたかったのだ。
よかったと思った時の新たな痛みは思いのほか心地よくもあった。
どこか霧がかかり彷徨っていた心が前を向いた。
迷いはいつのまにか光の中へと吸い込まれて消えてなくなった。
またな。とひとり呟いた。
中島崚真
聞きたかったことを耳にする。
触れたかったものに直に触れる。
その時初めて腑に落ちる。ということがある。
正確には見たいようで。でも見たくないような。
触れたいようで触れたくないような。
複雑な気持ちのまま彷徨っている感じだろうか。
見たくない。聞きたくない。触れたくない。
そう思うのは事実に触れた時の自分の心の持ちようを
持て余してしまうと先回りして考えるからだろう。
しかし見たい。聞きたい。触れたい。という衝動は
なかなか抑えられるものではないことも知っている。
核心に触れるか触れないかのギリギリのところで
すり抜けていくことを数回繰り返してみるが
当然答えを知ることは出来ない。
実はその答えは知っていて、でも正面から衝突していないので
自分の中ではまだ99%だと勝手に思い込み、
自ら作り出した残りのたった1%のために彷徨っているのである。
もう答えは分かっているのにもかかわらず、
見たい見たくない。知りたい知りたくないを
1%だけ残して間抜けにも繰り返すのである。
しかし、その彷徨の終焉は突然やってくるもので、
今回もギリギリをかすめようと思ったら
向こうから突然目の前に現れたのだ。
そうなればもう凝視するしか道はない。
突然すぎて目をつぶって耳を塞ぐこともできない。
覚悟を決めて触れてみるのである。
答えは間違っていなかったとわかるのと引き換えに
やはり想像した通り心の持ちようがわからない。
悲しいとか悔しいとかに似たやるせない感覚が
過去の時間とともに押し寄せてきてふらふらとする。
ふらふらしたまま事実をかみ砕く。
これが見たかったことだ。触れたかったものだと。
気持ちの持っていきように困った時間が幾ばくか過ぎると
その痛みに耐えながら体を整えて向き直る。
自分の手から離れていくことを認めることが
寂しくもあり悲しくもある。そして悔しさと虚しさ。
そしてその痛みは以前から抱えていたものだとわかる。
痛みは記憶であり、面影であり、なつかしさの化身だった。
痛みに耐えることではなく痛みが消えることが怖かったのだ。
しかし事実はとうの昔に手からは離れていたのだ。
指先だけは触れているように勝手に想像していただけなのだ。
事実を知った今、指先からふわりと創造の産物が痛みと共に離れ
風に乗って瞬く間に消えていった。
そう。これでよかったのだと思う。
いや。よかったと思いたかったのだ。
よかったと思った時の新たな痛みは思いのほか心地よくもあった。
どこか霧がかかり彷徨っていた心が前を向いた。
迷いはいつのまにか光の中へと吸い込まれて消えてなくなった。
またな。とひとり呟いた。
中島崚真